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東京地方裁判所 昭和63年(ヨ)3890号 判決

債権者

株式会社第一相互銀行

右代表者代表取締役

小林千弘

右訴訟代理人弁護士

渡邊洋一郎

瀬戸英雄

債務者

「文坂富太郎」及び「自由公論社」こと

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

中嶋一麿

主文

一  債権者が債務者のため全五〇万円の保証を立てることを条件として、

1  債務者は、別紙図書目録記載の書籍を頒布し、又は販売してはならない。

2  債務者は、右書籍の広告を行つてはならない。

3  債務者が所持している右書籍の占有を解いて、東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

二  訴訟費用は、債務者の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

主文第一項の1ないし3と同旨

二  申請の趣旨に対する答弁

債権者の申請を却下する。

第二  当事者の主張

一  申請の理由

1  債権者は、相互銀行法に基づく銀行であり、債務者は、文坂富太郎のペンネームで執筆活動を行うとともに、自由公論社を主宰して小冊子等の出版、頒布及び販売を行つているものである。

2  債務者は、昭和六三年六月ころ、著者文坂富太郎、発行自由公論社の名義で「殺しもある暴力銀行 第一相銀を食つた悪い奴ら」と題する別紙図書目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を著作し、訴外株式会社星雲社を発売元としてその販売を行つた。本件書籍は、相当部数印刷され、昭和六三年六月中旬ころから東京都内及びその周辺の書店で店頭販売され始めており、同年六月一九日の毎日新聞朝刊にはその宣伝広告が掲載されている。

3  本件書籍は、「殺しもある暴力銀行 第一相銀を食つた悪い奴ら」との表題から明らかなとおり、債権者及びその役員の名誉及び信用を毀損するものであり、債権者の困惑に乗じて不当な利益を得る目的をもつて出版されたものである。その内容は、全編にわたつて虚偽の事実を書きつらね、悪意をもつて執ように債権者を誹謗中傷するものであるが、そのうちの主なものは、別紙誹謗中傷箇所一覧表記載のとおりである(以下、別紙誹謗中傷箇所一覧表記載の記述を個別に称するときは、同表の番号に従い、「本件記述一」「本件記述二」のようにいい、これらを総称するときは、「本件記述部分」という。)。

4  債務者が本件書籍の頒布及び販売を継続し、その宣伝広告を行うことをこのまま放置すれば、債権者が長年にわたつて培つてきた名誉及び信用は毀損され、その回復が著しく困難になる。

二  申請の理由に対する認否及び反論

1  申請の理由1及び2記載の事実は、いずれも認める。

2  同3記載の事実のうち、本件書籍中に本件記述部分が存することは認めるが、その余は否認し、名誉毀損の成立については争う。

債権者に関しては、特にその融資内容について、既に新聞報道等によつて数々の疑惑が指摘され、また、その経営全般についても厳しい批判の対象とされてきているところであるから、これらにより、債権者の社会的評価は、本件書籍の出版を待つまでもなく、既に、著しく低下しているものというべきである。また、本件書籍中の記述は、本件記述部分を含め、いずれも真実であり、新聞報道等によつて既に公知の事実であるところ、本件書籍は公共の利害に関する事項をその内容とし、専ら公益を図る目的のもとに出版されたものであるから、表現の自由を保障した憲法二一条の趣旨に照らし、違法性を欠くものというべきである。

3  同4記載の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一申請の理由1及び2記載の事実並びに同3記載の事実のうち本件書籍中に本件記述部分があることは、いずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が疎明され、これを左右するに足りる証拠はない。

1  債権者(代表取締役小林千弘)は、肩書地に本店を置き、東京都を中心として、神奈川、千葉及び埼玉の各県に合計四一店舗の支店を有する相互銀行(東京証券取引所第一部上場)であり、債務者は、文坂富太郎、東貴太等の筆名で評論等を執筆し、「自由公論内報」、「銀行一一〇番」、「新雑誌X」等の小冊子を編集、発行しているものである。

2  債務者は、昭和六三年六月六日、著者を文坂富太郎とし、発行元を自由公論社として本件書籍を出版し、訴外株式会社星雲社を発売元としてその販売を行つた。

本件書籍は、初版として五〇〇〇部製本され、このうち約四五〇〇部が取次店を経て各小売店に配本され、昭和六三年六月中旬ころから少なくとも東京都内及びその周辺の一部書店で店頭販売され始めたが、その後同年九月初めころまでに二〇〇〇部ほどが債務者のもとに返本され、現在二五〇〇部程度が店頭に出回つており、そのうちの一部は既に販売されているとみられる。

なお、この間、同年六月一九日の毎日新聞朝刊には本件書籍についての宣伝広告が掲載された。

3  本件書籍は、債権者の経営、とりわけ、その融資疑惑に関して新聞、週間誌等にみられた、5で述べるような内容の記事を抜粋して、これを再構成した第一部「目で見る第一相銀『悪の履歴書』」並びに、後述するように、債務者が既に「弾劾」、「新雑誌X」等に掲載してきた評論に加筆訂正し、これを再構成した第二部「告訴状」及び第三部「第一相銀清浄化委員会」から構成されており、その本文中には本件記述部分があるが、いずれもその真実性を裏付けるような具体的な根拠は示されていない。また、本件書籍の表紙カバーには、債権者代表者の顔を模写したイラストの上に、赤色で、その表題である「殺しもある暴力銀行」という文字が「暴力銀行」の部分をことさらに大きく強調して印刷され、さらに、赤地に白抜きで副題の「第一相銀を食つた悪い奴ら」という文字が、右肩部分に印刷されている。

4  債務者が本件書籍を出版するに至つた経緯等は、次のとおりである。

(一)  債務者は、昭和五一年ころ、当時自らが代表者であつた訴外東駒株式会社(後の商号福島産業株式会社)の債権者に対する借入金について、債権者に対して一億五〇〇〇万円を保証限度額とする連帯保証債務を負担していた(これについては当庁昭和五四年(ワ)第四四四七号貸金請求事件の確定判決がある。)ところ、その後、同じく債務者が代表者であつた訴外東菱酒造株式会社の破産宣告に関して、債権者が、右両会社を同一法人であるとして、同破産手続において、債権届出をしたことから、債権者との間で紛争を生じるに至つた。

右破産手続については、結局、破産財団の不足を理由に、昭和六一年一〇月二二日、破産廃止決定が確定した。

なお、右の債権届出について、債務者は、本件書籍中に、右東菱酒造株式会社が債権者を詐欺破産罪で告訴したとして、その告訴状の内容を掲載しているが、本件書籍出版時までに、右のような告訴がされたことはなかつた。

(二)  債務者は、右のような債権者との確執を背景に、昭和六〇年八月ころから、自らが主幹を務める自由公論社において発行する「銀行一一〇番」誌上で債権者を攻撃の対象として取り上げるようになり、同年八月二五日付の同誌では、「第一相銀の花と龍―社長の浮気とヤクザな体質―」と題して、債権者の経営体質等を批判し、特に、「“殺し”もある」、「尾崎(同和)殺しに深く関与か」との小見出しのもとに、その前年一月三〇日に起きた具体的な殺人事件について債権者の代表者が深くかかわつていたかのように記述し、併せてあたかも本文中にみられるのと同様な内容の記事を一冊の書籍にまとめて刊行する予定であるかのように示す左記の広告記事を掲載して、これを債権者宛に送付した。

第一相銀の花と龍

―社長の浮気とヤクザな体質―

著者文坂富太郎

目次

プロローグ

一社長の浮気

(1)  女子大生にうつつをぬかす

(2)  一発・一億八千万円

(3)  浮気の代償は架空債権で

(4)  恥の上塗り銀座ビル融資

(5)  韓国にも子をはらませて

二  “殺し”もある

(1)  尾崎(同和)殺しに深く関与か

―中略―

エピローグ

B6版P230¥1250

(三) 債務者は、その後も、債権者に対して執ような攻撃を続け、昭和六一年四月ころからは、東貴太又は第一相銀清浄化委員会の名義で、右「銀行一一〇番」の内容を更に進め、債権者の代表者や役員の私事にわたる事項をも交えて、債権者内部の派閥抗争の模様や債権者の融資にみられる疑惑等を記述した小冊子「弾劾」を執筆編集し、数回にわたつて債権者本支店宛に送り続けた。

(四) 債務者は、先の「銀行一一〇番」での出版予告に続き、右「弾劾」においても、「殺しもある『暴力銀行』―第一相銀を食つた悪い奴ら―著者銀行評論家文坂富太郎 出版発売元自由公論社B六サイズ二八五ページ豪華版¥一二五〇円〒二五〇円 堂々・出版に踏み切る。」(「弾劾」第一三週号、昭和六二年一二月二九日送付)、「いよいよ、『暴力銀行』の出版の機、至つて」(同第一五週号、昭和六三年一月一二日送付)、そういうとき『暴力銀行』が刊行される。」(同第一六週号、昭和六三年三月二四日送付)などと本件書籍の発売を再三にわたつて債権者に対し予告し続けてきた。

(五) また、債務者は、このように、本件書籍の出版を、昭和六〇年八月以来、債権者に対して予告し続けてきた一方で、同じく「弾劾」誌において、「賽は已に投げられたのであり、これを当会に対してだけ無為無策に打ち過ぎた小林に全責任がある。」(「弾劾」第四週、昭和六二年八月一三日送付)、「ここまで書いてきてふと気づいたことがあつた。それはいよいよ発売になる『暴力銀行』の及ぼす影響についてである。」(同第一八週号、昭和六三年六月一日送付)、「自ずとチャンスがある。タイミングがある。そしてそのタイミングは果たしていまなのか。いまでないとすればいつなのか。それを改めて問い直さなければならない。」(同)、「死命を制すか『暴力銀行』。小林の死刑も後一ケ月後に迫った、この絶好のタイミングに『暴力銀行』が発刊される。」(同第一九週号、昭和六三年六月二日送付)などと、債権者の出方次第によつては、まだ、本件書籍の出版が中止されることもあり得るかのごとき態度を示してきた。

また、その間、債務者の意を受けた細井良誠と名乗る者が再三にわたり、債権者総務部を訪れ、本件書籍の出版を示唆しながら、「自由公論内報」一部一万円の年間購読、同誌への定期的な広告掲載等を要求する一方、債務者自らも、電話等により同様の要求をしてきた。

(六) 債権者は、これらの債務者の行動に対し、まず、昭和六〇年一〇月一七日付の「銀行一一〇番」に関し、文坂富太郎を名誉毀損罪で告訴し、続いて、昭和六一年八月一五日には、「弾劾」に関し、東貴太を信用毀損、業務妨害罪で告訴したほか、昭和六三年一月には、「新雑誌X」に関しても、債務者古市を名誉毀損罪で告訴した。

5 債権者の経営内容に関しては、昭和六二年一〇月ころから、毎日新聞、読売新聞等の大手新聞紙上において、後に国土利用計画法及び宅地建物取引業法違反で起訴されるに至つた最上恒産グループに対し、債権者が大蔵省の通達で定められた限度額を大幅に超えるいわゆる過剰融資をしていた旨の報道がなされてきたほか、導入預金の疑惑、東京都八王子市の八王子霊園開発事業に対する巨額融資の疑惑など、その融資内容の不健全さを指摘する新聞報道が少なからずされてきていたが、本件書籍発売後の昭和六三年七月には、昭和六三年度の大蔵省定例検査の結果、債権者が多額の不良債権の存在を指摘され、同省から業務改善命令、決算承認銀行化という厳しい内容の行政指導を受けた旨の事実が報道されるに至つている。

6 債務者は、本件仮処分申請後の昭和六三年八月下旬にも、第一相銀清浄化委員会名義で、「『暴力銀行パート2』遂に出る!題して『第一相銀・仁義なき戦い』…或る元重役の告白…」と記載された本件書籍の続編の出版をほのめかす書面(「弾劾」第二一週号)を債権者蒲田支店宛に送付してきた。

二右疎明された事実によれば、債権者は、その融資内容に関しては、少なからず不健全な部分があるとみられてはいるものの、東京都を中心として関東地方一帯に支店網を有する東京証券取引所第一部上場の相互銀行であり、右認定のような新聞報道等にもかかわらず、取引社会においてはいまなお中堅の相互銀行としての評価を受けているものと認められるところ、本件記述部分の中には、「週間誌から新聞まで怪文書の類として必ず登場するのが、御存知『銀行一一〇番』である。それは昭和六十年八月号となつており『殺しも』とサブタイトルが付いている。同和の尾崎清光殺しをさしている。第一相銀は金を貸すだけでなくて『殺し』も請負わせるという意味で少しドギツイ表現である。」(本件記述三)、「昭和五十六年三月二十五日、神田神保町にある第一相銀本店営業部に一つの普通預金が開設された。―中略―ところが後日、この口座は、どえらい働きをすることになる。それもその筈、佐々木太吉という架空の口座は実に第一相銀社長小林千弘その人の口座であつたからである。―中略―さて、それではそのどえらい働きとは何か。それは太吉を除くとりまきからのリベート受入れ窓口だつたのである。では、そのとりまきとは誰か。それはロクな仕事もせず、利権と恐喝だけで飯を食つているヤクザ稼業の連中である。」(本件記述九)などのように、債権者及びその代表者が、実際にあつた具体的な殺人事件に関与していたり、暴力団関係者からリベートを受け取つているかのごとく印象づける記述があるばかりでなく、「以上により犯罪の内容はほぼお分かり頂けたと思う。要するに意識して裁判所を利用して架空の債権をデッチ上げ、それらを自らのバランスシートに計上して銀行の資産比率を高めようとしたもので、…」(本件記述六)、「ここに松永富子と(株)松竹の全口座残高照会票(1)を掲載する。これをよく見て頂きたい。これは第一相銀のものなのか。そうではないのか。もし、そうでないとすればニセ物という事になるが、ニセものなら誰が偽造したというのか。―中略―第一相銀では前述の偽造又は秘密漏洩の犯人を上げる自浄作業が出来ないというのであれば当会が代つて検挙するしかあるまい。それはズバリ小林千弘である。」(本件記述一〇)などの記述にみられるように、債権者及びその代表者が正に犯罪者であると断定する記述部分もあり、さらには「ここまでくると、小林と早坂のホモ説を以てしなければ、どうしても説明が付かないのである。」(本件記述八)、「ここへきて不幸にも二枚目の写真が実に二十年ぶりに世間にお目見えする事になつた。それが凡そ銀行家らしからぬ、土建屋の親方でも最近は滅多にお目にかかれない、東南アジア系の詐欺師のような、泥棒のような、ブローカーのような、上の写真と相成つた次第である。」(本件記述一八)などと、債権者代表者のことをことさらに侮辱的な言辞でもつて評する記述部分もあるのであつて、これらは、一連の前述の新聞報道等にはみられない事実を摘示して、債権者及びその代表者の、犯罪や暴力団とのかかわりをことさらに強調するものであつて、このような記述内容を有する本件書籍が、既にみたように、債権者の営業活動の中心である東京及びその周辺で販売された場合には、一般読者において、新聞報道等にみられる以上の疑惑を債権者に差し向けるであろうことは容易に推測されるところであるから、本件書籍の販売によつて、債権者の社会的評価は著しく低下し、その名誉が侵害されることは明らかであるといわなければならない。

債務者は、既に新聞報道等によつて債権者の社会的評価は著しく低下していると主張するが、本件記述部分の内容は、既述のとおり、一連の新聞報道等において述べられているところとは異質なものであつて、本件書籍の販売により、債権者の社会的評価がなお一段と低下するであろうことは疑う余地のないところであるから、債務者の右主張は失当である。

三ところで、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値である名誉を違法に侵害された者は、事後的に、損害賠償又は名誉回復のための処分を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができると解するのが相当であるところ、名誉権は法人についても認められるのであるから、この理は、法人がその名誉を侵害された場合にも基本的に妥当するものといわなければならないが、言論、出版等の表現行為により名誉侵害をきたす場合には、表現の自由が特に重要な憲法上の権利であることに照らし、差止請求権を認める要件、特に事前差止めの要件については格別に慎重な考慮を必要とし、その表現行為が公共の利害に関する事項にかかるものである場合には、憲法二一条一項の趣旨に照らし、当該表現行為に対する事前差止めは原則として許されず、ただ、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞れがあるときに限り、例外的に事前差止めが許されるものというべきであつて、この理は、私企業であつても銀行のようにその業務の性質上公共性が極めて強い企業に対する評価、批判等に関するものである場合にも、同様に解するのが相当である。

もつとも、出版物の一部について、既に頒布等が行われた後の差止めについては、全く頒布等が行われていない場合に比較して、より緩やかな要件のもとに差止めを認める余地がないではないが、一部の頒布等が行われた場合であつても、出版部数及びその方法、範囲、出版後の期間の長短等からみて、出版物が社会に十分に伝播されておらず、かつ、その表現内容についてもいまだ十分な批判の機会が得られていない段階での差止めは、結果として、表現内容の読者への到達を遅らせ、これに対する公の批判の機会を減少させるという点において、頒布前のそれと実質的に大きく変わるところがないから、このような段階での差止めについても、基本的には右要件に従つて検討するのを相当とし、これを具備する場合に限り、差止めが認められるものといわなければならない。

そこで、本件書籍の場合についてみるに、本件書籍は、昭和六三年六月六日に発売され、初版として五〇〇〇部製本されたもののうち、約四五〇〇部が配本され、その後約三か月の間に、二〇〇〇部程度が返本され、現在なお二五〇〇部程度が店頭に出回つているというのであつて、その部数及び期間からして、かなり公の批判の機会を得ているとはいうものの、書籍という表現手段の性質上、いまだ十分とはいえない状況にあるものと認められるから、結局のところ、その差止めの可否は、右に述べた要件に従つて検討されるべきである。

そこで、前記認定事実に基づいて、以下これを検討するに、本件書籍の内容は、私人とはいえ銀行という極めて公共性の強い企業に関するものであつて、原則的には差止めを許容しがたい類型に属するものであるが、債務者が本件書籍を出版するに至つた経緯、すなわち、債権者に対して多額の債務を負担している債務者が、「弾劾」誌上において再三にわたり本件書籍の刊行を予告しつつ、他方で、債権者に対し執ように金銭的な出捐を要請してきていたという経緯からするならば、債務者の主たる意図は、債権者の困惑に乗じて同人から金銭的な利益を得ようとの点にあつたものといわざるを得ず、これが専ら公益を図る目的のもとに出版されたものでないことは明白である。加えて、債務者は、本件書籍において、少なくとも新聞報道等において何ら指摘されていない事実を、その真実性につき、具体的な根拠を示すことなく記載しており、本件全資料を精査しても、本件記述部分が真実であり、又は債務者がこれらを真実であると信ずるにつき相当な理由があることについて、みるべき疎明はない。債権者については、既に新聞報道等において数々の融資疑惑が指摘されているとはいうものの、その実態はいまだ必ずしも明らかにされていない時点で、本件記述部分、とりわけ、具体的な殺人事件につき債権者代表者が深くかかわつていたかのような記述を含み、これと関連付けて「殺しもある暴力銀行」という表題を付した本件書籍の販売が行われるときは、一般読者において、容易に新聞報道にみられる以上の疑惑を債権者に対してもつであろうとみられるから、債権者の名誉が侵害される程度は極めて大きく、しかも、本件書籍が一般書店での販売を予定したものであり、広範な情報伝播が予想されることをも考慮にいれるならば、債権者が著しい打撃を受けるであろうことは容易に窺われるところであつて、本件書籍の販売によつて、債権者は重大にして著しく回復困難な損害を被る虞れがあるものと認められる。

以上によれば、本件書籍は、これが専ら公益を図る目的のもとに出版されたものでないことが明白であるのみならず、その記述内容の真実性について疎明がなく、かつ、その販売により、債権者は事後的には回復しがたい重大な損害を被る虞れがあるものと認められるから、前記基準に照らし、債権者は債務者に対し、名誉権侵害に基づき、本件書籍の頒布、販売及びその広告の差止めを求める権利を有するものといわなければならない。

そして、債務者が現に本件書籍の販売を継続している以上、直ちにその差止めをしなければ、債権者の損害が日々回復困難なものになることは、前述したところから容易に首肯できるから、保全の必要性も存するものと認められる。

四以上の次第で、本件仮処分申請は理由があるから、債権者が債務者のため、その被ることあるべき損害の担保として金五〇万円の保証を立てることを条件としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三宅弘人 裁判官原田晃治 裁判官石原稚也)

別紙図書目録

一 表題 「殺しもある暴力銀行」

「第一相銀を食つた悪い奴ら」

二 著者 文坂富太郎

三 発行者 自由公論社

四 発売元 株式会社星雲社

誹謗中傷箇所一覧表

番号

ページ数

内容

備考

表題

殺しもある暴力銀行第一相銀を食った悪い奴ら

二頁一行目から

四頁末尾まで

この盗っ人を逃がすナ

……中略……

……何のことはない。長田にとって百億単位の儲けが転がり込むブローカー話だったのである。

一五頁二行目以下

週刊誌から新聞まで怪文書の類として必ず登場するのが、御存知「銀行一一〇番」である。それは昭和六〇年八月号となっており「殺しも」とサブタイトルが付いている。同和の尾崎清光殺しをさしている。第一相銀は金を貸すだけでなくて「殺し」も請負わせるという意味で少しドギツイ表現である。

「銀行一一〇番」は債務者古市が執筆出版しているものである。

一一二頁一行目以下

筆者の関係者のひとりから、とてつもないアッパーカットが飛んできた。それが詐欺破産罪で小林以下を告訴したのである。

一一二頁一五行目以下

小林をタタケ、小林をタタケというガサネタばかりをわざと岩井サイドから銀行内に出させておいて、岩井のマッチポンプ説を印象づけ、事実上、代表取締役副社長の身でありながら、常務会にも出席させないという体罰を加えたのである。この辺の策略については広い日本にも恐らく小林の右に出る者はいまい。正にそれは天才の域に達している。

一一八頁六行目から

一一九頁六行目まで

以上により犯罪の内容はほぼお分かり頂けたと思う。要するに意識して裁判所を利用して架空の債権をデッチ上げ、それを自らのバランスシートに計上して……中略……

……こういう犯罪者は刑務所へ送らない訳にはいかないのだ。

一二五頁一行目以下

東君によって大量に印刷された、問題の新聞はいざ発送する段階になると、案の定その筋から待ったがかかった。それはさすがの小林も事件の大きさに空恐ろしくなったのだろう。

金額が誰から誰にいくら支払われたかは定かでないが、東君は五万部新聞他全額を手形で受取りいろいろ途中で問題はあったが、結局は決済がついたという。

「オレにあの位呉れたのだから、彼等は相当の大金を貰った筈だろうな」というのが当時の東君の率直な感想であった。

それが俗にいう内外タイムス東矢への三千万説である。

一三〇頁一二行目から

一三二頁七行目まで

(1) 小林はホモだった? ……中略……

ここまでくると、小林と早坂のホモ説を以てしなければ、どうしても説明が付かないのである。

一三二頁一二行目から

一三四頁一四行目まで

佐々木太吉という架空の口座は実は第一相銀社長小林千弘その人の口座であったからである。……中略……

……当然リベートも二倍以上で三億を下る事はあるまい。

一〇

一三六頁五行目から

一三七頁一四行目まで

(4) 犯人は小林社長か?

……中略……

少なくも日本の一部上場企業としては、前代未聞の破廉恥な珍事であろう。

一一

一四一頁五行目から

一四二頁六行目まで

(7) 「大蔵検査」なんてチョロイもんだ

……中略……

早坂コケれば小林もコケ、これで一巻の終わりになる筈だった。

一二

一四四頁二行目から

一三行目まで

特に相沢の資産形成には問題がある。何れ後でこの問題を俎上に乗せるが……中略……

けだし、慧眼である。そしてその秘密を握っているのが、即ち新四天王である。

一三

一四六頁九行目から

一四九頁七行目まで

第一 東日本同和に百億円?

……中略……

ヤクザのそれよりもっとヒドイと思いませんか。

一四

一四九頁一二行目以下

この東日本同和会という、利権集団へは彼女は百億円と云っているが、その後の当会の調べでは一五四億円になっていることが判明した。

これだけで第一相銀融資ワク限度六〇億を約二倍半オーバーしての違反である。

しかし考えてみれば、早坂ばかりかと思っていたらよくもまあ、こんな手合に次から次へと金を貸したものである。

これでは街の高利貸体質から一歩も出ていない。

一五

一六〇頁四行目以下

問題の人早坂太吉が二五二万株で確実に八位にランクされ、これこそ問題そのものである。

一六

一六一頁六行目以下

問題は第一相互銀の真実の中身である。先に多少ダーティでもと書いたが、当会が再三指摘してきたように多少どころの話ではない。真っ黒けのダーティであることはまず間違いない。

一七

一六二頁八行目から

一四行目まで

② 小林千弘社長

第一相銀の象徴的人間だ。早坂とは勿論ツーカーの仲で唯一のワンマンである……中略……

四天王以外には箝口令を敷いて秘密を保持している。

一八

一七三頁八行目以下

ここへきて不幸にも二枚目の写真が実に二十年ぶりに世間にお目見えする事になった。それが凡そ銀行家らしからぬ、土建屋の親方でも最近では減多にお目にかかれない、東南アジア系の詐欺師のような、泥棒のような、ブローカーのような、上の写真と相成った次第である。

一九

一七五頁九行目から

一七七頁一二行目まで

さしずめ、小林がワルの西横網だとすれば、長田は自他共に許す堂々たる東の、それも大横網である。……中略……もう、いい加減腹を括ったらどうだい」

二〇

一八〇頁一行目から

二〇二頁八行目まで

第一相銀で小林と共に目を離せないのが、共に悪を象徴する一方の雄、相沢昭雄会長である。

……中略……

……今日の相沢・小林の為にあるような気がしてならない。

二一

二〇六頁一二行目から

二〇九頁末尾まで

(3) 小林のガサ入れ始まる。

……中略……

可哀想に、女、子供までを道連れにして、いったい小林千弘はどこへ行こうとしているのだろうか。

二二

二一六頁一行目から

二一八頁九行目まで

(1) 二五億ブラックへ流す

……中略……

問題はこんな大金を、どこから、どうして捻出したかにあるだろう。

二三

二二九頁三行目から

二二九頁一六行目まで

第一相銀告発シリーズは一応これを以て完結したことになる。しかし……中略……

それにしても、何とスキャンダラスな銀行なのだろう。

二四

二三八頁二行目以下

残念なことに現在筆者が見た、一千人の一相マンの目は濁っている。何物かに脅えている。何物かを呪っている。

何物かから逃げている。

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